2026/7/12

多様性の科学

著者: マシュー・サイド

なぜ、優秀な人だけを集めてもうまくいかないのか?

多様性は単に集合知を高めるだけでなく、独自の進化を導く要素であり、人類に成功をもたらす鍵です。
逆に、画一的な組織では盲点を見抜けず、人材の偏りが失敗を助長してしまいます。
多様性は、激しい競争を勝ち抜くための不可欠な要素なのです。

人類の発展は、個人の脳の性能よりも、多様な人々とのつながりにかかっています。
人類が地球上で現在の地位を保っているのは、個人個人の力というよりも、多様な集団であるからです。
個人がそれぞれの知恵を持ち寄り、集団で共有し、その中で様々なアイデアが世代を超えて融合されることで、数々の驚異的なイノベーションが生まれました。

記憶に残った、以下2つの事例を紹介します。

硬直したシステムが生産性を下げ、離職率を上げる

2010年春、労働経済学者のマイケル・ハウスマンは、コールセンター従業員に関する研究を開始しました。彼が知りたかったのは、従業員の生産性や離職率の違いを分ける要因が何かということでした。しかし、どれだけ調査をしても何も見えてこず、辻褄の合う答えが見当たりませんでした。

ある時、ハウスマンの研究助手が「ブラウザの情報」という着眼点を得ました。調査の結果、FirefoxやChromeを使ってオンライン査定のフォームに入力した者は、Safariやインターネットエクスプローラー(IE)を使っていた者よりも、勤続期間が15%長いことが分かりました。

さらにチームが従業員の欠勤日数も調べたところ、FirefoxやChromeを使っていた者は、SafariやIEを使っていた者より欠勤が19%少なかったのです。この現象はパフォーマンスにも現れており、FirefoxやChromeの使用者は、生産性、売上の業績、顧客の満足度のすべてにおいて高い数値を記録していました。

ポイントは、インターネットエクスプローラーもSafariも、最初からインストールされている「初期設定」のブラウザだということです。電源を入れればすぐに使えます。一方で、FirefoxやChromeは、どのブラウザがいいか自分で探し、わざわざダウンロードしてインストールしなければ使えません。

問題はブラウザそのものではなく、それを選択した 従業員の心理傾向の違い にあります。
世の中には、目の前の世界をあるがままに受け入れる人がいる一方で、世界は変えられるものだと考え、常に「もっといい方法はないか」と模索し実践する人がいます。一見すると些細なブラウザの選択は、そうした心理傾向の違いを物語っていました。

初期設定以外のブラウザを使っていた従業員は、マニュアルに縛られず、自分なりに工夫して顧客の対応に当たる傾向が高かったのです。そうした姿勢があったからこそ、離職率も欠勤率も低く、マニュアルの枠組みから抜け出して問題を解決し、自分の仕事に変化を起こすことで、満足感を感じながら高い生産性を発揮していました。

一方で、現状を不変のものとして受け止める従業員は、マニュアルの枠から出ようとしないため、問題の解決率が低い傾向が見られました。特定の枠組みから抜け出せるマインドセットを持っている人は、そうでない人に比べて生産的で満たされており、現状に甘んじることなく柔軟に問題を解決していく力があります。

オフィス環境に関する実験

次に、オフィス環境に関する実験の結果です。
1つ目のグループは、誰の作業スペースも同じ見た目で、最低限のものだけを揃えた「削ぎ落とした環境」で作業をしました。
もう一方のグループも備品は標準化されていましたが、壁に絵が掛けられ、デスクのそばには観葉植物が置かれているという違いがありました。
結果、後者の「人間的な環境」のグループの方が、生産性が15%高くなりました。

無駄を削ぎ落としたスペースは、組み立てラインのような流れ作業には向いているかもしれませんが、認知力や想像力を要するタスクには不向きです。
さらに3つ目のグループでは、被験者自身に絵や植物を飾らせ、彼らの好みや個性に合ったスペースにさせました。結果は明白で、この「個人主導の環境」のグループが最も生産性が高く、無駄を削ぎ落とした環境と比較して約30%も高い数値を出し、2番目の環境よりも15%高くなりました。

生産性が向上した要因は2つあります。1つは 「権限の有無(自律性)」 です。
他人から指示されるのではなく、主導権を得て自分だけの世界を作れるということは、モチベーションを高める上で非常に重要なのです。2つ目は、個人的な空間にカスタマイズでえきること。「自分だけの世界を作れる」ことでした。

まとめ

優秀な人間を集めると、同じようなタイプの人間ばかりになってしまうことがあるという。
確かに、自分と同じような考え方を持つ人間の方が、話は合うのかもしれない。
結果、思考が偏り、保守的になってしまうのかもしれない。

多様性が大事であり、必要なことは、分かっている。
けど、それを受け入れるのは、なかなか難しい。
やはり話が通じない人とは、一緒に仕事をしたくない。
だが、それは、多様性とは別の次元の話なのだろう。

互いに尊重できる関係での多様性であれば問題ない。
むしろ望ましい。

そんなことを改めて考えることができた一冊であった。